Paphiopedilumに限らず育種には時代ごとにトレンドがある。もちろん「大きく」、「丸く」、「鮮やかに」の3原則は育種において基本的な方針として存在し続けているが、やはり地域や年代によってその個性が見られる。例えば金魚は主に日本と中国において育種が進められたが、中国は出目金や水泡眼などの「面白い金魚」を追求したのに対して、日本は蘭中や地金のような「美しい金魚」を追求したとも言われている。

話をランに戻して、Paphiopedilumでは
- 初めにシグマトペタラム亜属やinsigneに代表されるパフィオペディルム亜属を用いた整形花が作られ始めた
- roschildianumを中心としたポリアンサ亜属(旧)の大型・多花性交配
- ブラキペタラム属を用いた交配種の育種
- パービセパラム属を用いた交配種の育種
の順に遷移しており、まさに今は台湾を中心としてパービ交配種が盛んに行われている。
ここで面白いことにこれらのパフィオの育種トレンドはカトレアの育種トレンドを追随しているように見えるとの声がある。
概要的には初期には原種のまま改良する事よりもとりあえず交配してみて徐々により園芸的な人工的な芸術性を追求する、いわゆる整形花の育種が台頭する。しかしその後、現実的な親しみやすさや、育種全体における価値観の自由化に伴い手頃で可愛らしい小型種の育種も流行ってくる。また原種そのものの育種も’整形原種‘とでも呼びたくなるほどのレベルになってきており、もはや初期の山木とは他の変種だと言われても分からない程別物になってきている。花の審査的価値の上昇に加えて、長い育種の過程の副産物として初期において難栽培種だったものも今は簡単に育てられるようになってきている。
実際にはまず①カトレアと同じく、insigneなどの普及種から異種間交配が始まり②大輪カトレアの育種が増加し、その流れを汲むようにポリアンサ亜属を用いた大型多花パフィオの育種が栄えた③次にカトレアで旧ソフロ系を用いた小型種の育種が台頭したのち、その流行を汲むようにブラキを用いた小型パフィオの育種が栄え。④そしてパービ、特にハンギアナムの登場によりパービ系育種が台頭した。またこのパービ亜属は少ない水やりを好み、寒さにも強く、株がかなりコンパクトであるなど温室を持たないこれからの愛好家の住宅事情にも最適である。
Paph.hangianum 大型の花を咲かせるので重宝されている
